作者：詠み人知らず

星空の絆、ひとひらの願い

都会の鼓動が肌を刺激する。仙台の夜はいつだって活気に満ちている。ただ、俺、志村拓人にとって、その光と騒音は遠い世界の物語だった。

「また今日も一人か……」

片思いのあの子の背中を眺めながら、重いため息をつく。彼女は遠く、俺の存在なんて知らない。

一方で吉村鈴は、仕事でのミスを部長に怒られた後、疲れた顔で夜の帳が下りる街を歩いていた。

「明日は明日でがんばろっと！」
鈴はいつも通り明るく自分を励ます。だけど深層では、会社のために働く自分の存在意義に疑問を感じ始めていた。

ーーそんな夜、ふとした瞬間の願いが奇跡を呼ぶ。

「俺…誰かと入れ替わって、新しい人生を歩みたい」と拓人。
「私…もっと違う人生を試してみたいな」と鈴。

願いは星空の彼方へと消えていった。すると、現実が色を変え始める。目を覚ますと見知らぬ天井、そして見知らぬ手。
「えっ？ こ、これは……俺の体じゃない！」
声に出すと鏡に映るは、小柄な女性。あの光が目を覚ました瞬間、志村拓人は吉村鈴になっていた。

同様に鈴も、全然違う体で目覚める。
「なんでこんなに背が高いの！？ しかも…これって男の人の体？」
混乱が走り、２人はお互いの存在に気がつく。あれよあれよと連絡を取り合い、事情を共有するうちに不思議な絆を育んでいく。

何日かが経ち、２人の生活は少しずつ変化していた。鈴は拓人の家族や学校生活に溶け込み始め、拓人も鈴の職場での評価を上げていく。

「すごいね、最近の拓人はグループの中心で皆から慕われてるよ」
拓人の親友が感心する。

「鈴さん、なんか最近仕事できるようになってる！」
鈴の同僚も驚いていた。

それぞれに自分では気づかなかった魅力や才能が開花していった。そして、何よりも素晴らしいのは入れ替わりのせいで気づいたこと。

「鈴ってバカ正直で優しくて…俺もっと自分を好きになれそう」

拓人は、鈴との交流を通じて自分自身を理解し始める。鈴もまた同様だ。

ーーそして迎えた結末。

入れ替わりから数週間が経ったある夜、ふたたび同じ星空の下で二人は願う。元の体に戻るために。

「なぁ、鈴。お前と入れ替わって分かったんだ。俺たちって似てるんだな」
「うん、拓人くん。私たち、もしかして親戚？」

不意に空から降り注ぐ光。そして、二人は元の体へと戻っていた。

日常に戻ったある日、二人は同じ墓地で偶然再会する。両親の名前を確認し合うと、信じられない事実が浮かび上がる。

「えっ、お前の母さんって……俺の父さんの妹だったの？」
「そうみたい……。だから入れ替わりやすかったのかな？」

互いを「親戚」として再認識する二人。実は彼らは従兄妹だったのだ。そしてそれをきっかけに、本当の家族の絆を感じ始める。

入れ替わりという奇跡は、２人にとってかけがえのない経験。そして彼らの人生を少しでも輝かせる力となった。