作者:詠み人知らず

深夜に歌った桜の下の物語

桜の下で、さくらは一人で歌っていた。

「花が咲く
夢だけが連れてきた
季節が過ぎ去っても
心の中はいつも輝いて
桜の下で、また歌ってみたい」

歌声が静かな夜風に乗って、星空まで響いていく。夜の公園には他に人影がなく、彼女の歌声だけが響き渡っている。

「……」

思わず立ち止まった男性がいた。
彼は黒い部屋着に身を包み、長い髪を風になびかせながらさくらの歌声に引き寄せられていた。

「すごい声だね」

彼が声をかけると、さくらは驚いて彼を見上げた。

「ありがとうございます。一人で歌っていたので、ちょっと恥ずかしいです」

彼は笑いながら近くのベンチに座り、さくらに隣に座るように勧めた。

「ひとりで曲を作っているんですか?」

「ええ、そうです。自分の思いを歌にのせるのが好きで、心の中の気持ちを歌ってみたいんです」

さくらは照れながら答えた。
いつも一人で桜の下で歌うさくらにとって、初めての人との出会いは心地よい刺激だった。

「それはすごいね。そんな真剣に歌に向き合うさくらさんの姿勢が素敵だと思うよ」

彼は優しく微笑みながら言った。
そしてしばらくの間、二人は夜の公園で桜の下に座って、楽しい会話を交わした。

すっかり打ち解けた二人は、次第に深い話題にも踏み込んでいき、お互いの心の中をのぞき込むような時間を過ごしていった。

すると、さくらが再び立ち上がった。

「もうすぐ日が昇りそうですね。そろそろお別れの時間です」

彼の心の中で、少し寂しさがこみ上げてきた。

「そうだね、でもまた会いたいな。さくらさんの歌声が聞きたいから」

彼はさくらの手を取り、少しだけ強く握った。

さくらは赤らんだ顔を隠すようにして微笑みながら、頷いた。

「また会いましょうね。そして、次は一緒に桜の下で歌いましょう」

彼とさくらは、その場の別れを告げて別々の道を歩き始めた。

彼は桜の下で出会ったさくらの歌声を忘れることはなかった。
そして彼自身も、彼女と出会った記憶を胸に刻み続けることだろう。

かすかに光る朝日の中、彼らの出会った奇跡が微笑んでいるようである。

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