作者:詠み人知らず

色とりどりの彼女と僕の距離

満員電車の朝。いつも通り地面を見つめる自分の靴が、ほんの少し不自然な角度に揺れる。ため息をつきながら手すりを握る私、末永慎太郎はただの24歳の社会人。何も変わり映えのしない朝の通勤が、ただ一つの出会いで色彩豊かに染まっていくなんて、その時は知る由もなかった。

「ちょっとそこの、メガネ!」
「へっ?」

声の方向を振り返ると、そこにはきらびやかな派手な装いのギャル、松野ミカがいた。彼女の周りで不穏な空気が漂っていて、間違いなくトラブルの予兆だった。背が高くない僕でもハッキリと状況は見えた。ド派手な姿に反して、彼女の目は怯えていたのだ。

ーー痴漢か。

心臓がばくばくと鳴り始める。声をかけられたことなんて、職場でもなければほとんどなかった私に、こういうところで活躍できるわけがない。だけど、その目を見た瞬間、何かが崩れ落ちた。ギャルが苦手だった。でも間違っているのは触る方だ。

「大丈夫ですか?」
「あんた、助けてくれるの?」

僕は相手の手を掴み、車内の注目を集めながら声を荒げた。
「こいつ痴漢です!誰か駅員を!」
周囲がざわつき始め、加害者はあっさりと駅員に引き渡された。それからすぐに電車は動き出し、松野ミカと僕はその場に二人きり。

「ねえ、なんで助けてくれたの? 付き合ってくれるわけでもないのにさ」
「それが当たり前だと思ったからです」
「まあ、けなげ~!ありがとう、メガネ君!」

会話がそこで終わったが、彼女の笑顔が僕の心に残った。次の日からも電車で顔を合わせることが増え、自然な流れでお礼に飲み物を受け取る間柄に。だがその関係は、リンの登場で大きく動き出す。

「おっ、ミカの救世主だっけ?こんなとこで何やってんの?」
「あ、あの、この本が……」

書店の片隅でバッタリ会ったのだ。リンは彼女の友達で、学校を出たばかりのフレッシュな感じの女の子だった。彼女との会話が意外と楽しくて、その場でミカにメッセージを送る彼女を見て、なんとなく胸騒ぎがした。

「末永くん、今度一緒にカフェでもどう?」
「私とですか?いや、でも……」
「大丈夫大丈夫、ミカも来るから!」

そうして訪れたカフェでの時間。ミカと会話することに驚いたが、妙に話しやすい自分がいて。軽やかに笑い合いながら、私は嘘のように彼女たちと溶け込んでいた。そして、そこでリンから提案がされる。

「じゃあ次はデートってことで!末永くん、ミカを優しくエスコートしてあげてね!」
「えっ、デート?!」
「うん。意外と面白いかもしんないし、二人っきりがいいじゃん」

結局、私は押せ押せの彼女たちに流されて、ミカと二人だけで過ごすことになった。デートと言いつつも、仰天するほどフツーの映画鑑賞とお茶。そうこうしているうち、僕の世界の色がどんどん彼女の色に染まっていくのが分かった。

「末永くん、今度も遊びに行こうよ。楽しかったから」
「えっ?あ、はい……ぜひ」

彼女の笑顔に押されて、僕はまた彼女と時間を共有することを誓った。根暗な僕がいつの間にか、ギャルの彼女と手を取り合って歩いている。不思議な縁に心を弾ませつつ、今日もまた、電車に乗って彼女の待つ場所へと急ぐのだった。

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