作者：詠み人知らず

凡庸な日常を底上げする、衝撃の五分

都会の外れ、閑静な住宅地にある小さな公園。通称「屋台公園」だ。なぜなら、毎日のように老夫婦が運営している屋台があるからだ。 その公園に足を運んでいるのは、高校2年生のミチルとシゲル。二人とも地元の高校に通うごく普通の男子高校生だ。 「シゲル、今日行くんだよな？」 「ああ、そうだよミチル。それじゃ、後で公園の屋台で合流しよう。」
二人はそれぞれ家を出た。ミチルはバイトに。シゲルはテニスの練習に向かった。 ただ、それはこれから訪れる異変を二人はまだ知らない。
夜、待ち合わせ時間5分前。屋台公園に到着したミチルの目の前に広がっていたのは、静寂に包まれた公園の光景だった。 しかし、今日の屋台は異様だった。老夫婦がいつも笑顔で迎えてくれるはずが、今日はおじいさんだけで、しかも表情は険しかった。
「今日、おばあさんは？」 下を向きながら、ミチルもシゲルの姿が見えない雰囲気に一抹の不安を覚えたが、それでも尋ねた。
「さあ、どこにいるんだろうね。」 思わず吹き出すようなおじいさんの声。瞬間的に動揺を隠せなかったミチル、ただただ呆然とその場に立つ。 その時、携帯電話にメッセージが入っているのに気づいた。
送り主の名前は「シゲル」。 焦る気持ちを抑えつつ開いたメッセージには「今日は行けなくなった」と、冷たく事務的なだけの報告。 今まで何度も遅刻してきたシゲルだが、決してドタキャンしたことはなかった。
そして、それからちょうど五分が経った時、衝撃の事実が明らかとなった。 「おじいさん、おばあさんがいますよ。」 -そして続いてきたのは- 「彼女が昨晩より一足早くこの世を去ったからだ。さあ、失礼だがそろそろ閉店時間だ」 全てを悟った瞬間、ミチルの脳裏にシゲルからのメッセージが閃いた。 何も知らない彼は、この状況を見てどうしたのだろう。屋台のおばあさんが亡くなった事実に、そしてシゲルのドタキャンの原因に。 今日の夕暮れ、その五分間で多くの事が変わった。そして、これから彼の日常が一変する事を、ミチルはまだ知らなかった。 ホラーのような現実。それが彼の生活を支配することになるのだ。